地元の人の役に立ちたい、顔の見える営業がしたい──そんな思いで僕は信用金庫に入りました。
でも、実際に始まった営業の毎日は、想像していた以上に地味で、泥くさくて、時に惨めなものでした。
信用金庫で10年営業をやってわかった、“派手さゼロのリアル”。そんな現場の現実を、正直に綴っていきます。
信用金庫営業のリアル
1.【雨でも風邪でも】スーツでバイク営業

入庫して預金や融資について通り一遍学んだ後、スーツにネクタイ姿で、50ccバイクにまたがる毎日が始まりました。
雨の日も、風の日も、雪が舞う日も関係ありません。
天気が悪い日は、まずカッパを着て出発。
訪問先に着いたら、カッパを脱ぎ、靴を脱ぎ、書類を取り出して訪問。
そしてまた着て乗って次の場所へ。
「なんでこんな日に外回りなんだろう」と思いながらも、毎日バイクにまたがりました。
バイクは“平の証”。車で営業できるのは、役席に昇進してからです。
早くバイクを卒業したい。そう願いながら、泥水を跳ね上げるタイヤを恨めしく見ていました。
でも、バイクの機動力は正直便利。細かい個人宅や狭い道にもすいすい入れる。
それにUターンも簡単だから効率面では悪くない。
そこが唯一の救いでした。

時代も変わって、バイクを廃止する信用金庫も増えてきているようです。
しかし、営業地区によってはまだまだバイクがメインになりそうです。
2.【高齢者と向き合う】今も残る”集金文化”

僕の担当には、まだ個人宅集金が残っていました。毎月決まった日、何軒も高齢者の家を回って現金を受け取ります。
今どき集金?と疑問に思う人もいるかもしれません。でも、地元密着の信用金庫では、まだこういった文化が残っている地域もあります。
正直、訪問しても若い人はいません。話す相手はほぼ全員高齢者です。
しばらくは「集金は今後減らしていく方向」と言われていました。
ところが、金利が上がり始めたタイミングで方針が変わりました。
「預金を集めろ」という声が再び強くなったのです。
その中で増えたのが「年金受け取り口座の変更依頼」でした。
2ヶ月毎に必ず振り込まれる年金は、預金増強にはかなり重要です。
毎日のように、高齢者のもとへ足を運び、「もしよかったら年金、うちで受け取りませんか?」と頭を下げ続けました。
よほどのメリットがない限り変更はしてくれません。
1件の変更をもらうのに、何回も通うこともありました。それでも、「あんた頑張ってるね」と笑顔で言ってもらえることが、何よりの救いでした。

個人宅に訪問して、たまに若い人が出てくるとびっくりします。笑
年金については、年金受取口座から引き落としを多数設定している人がほとんどなので、面倒臭がって変更を渋ります。
普通そうですよね。
3.何でも屋すぎる?広く浅くの知識戦

信用金庫の営業は、何でも屋です。
融資、預金、投資信託、保険、相続、カード、そして事業者支援まで。
一人の営業がすべてのジャンルを担当します。そのため、知識はどうしても「広く浅く」になりがちです。
融資相談で税務のことを聞かれ、投信の話から相続の相談に発展し、保険の提案で法律の壁にぶつかる──そんなことは日常茶飯事です。
正直、「中途半端な知識で大丈夫なんだろうか」と思うこともありました。

これに関しては個々人の意識の違いでだいぶ変わります。
一つのジャンルのプロフェッショナルを目指すのもいいかもしれません。
4.友人は銀行でバリバリ。僕はバイクでカッパ営業

友人には銀行に勤めている人もいました。彼らは何千万、何億という融資案件を扱っていました。
一方、自分は小口融資がメイン。50万、100万の融資の申請なんて日常茶飯事です。
「同じ金融機関でも、向こうは車で移動して商談。自分はカッパでバイク……やっぱり銀行の方が華やかだな」そんなふうに感じる日もありました。
でも、銀行はノルマがきついとも聞きます。
それでも、バイクじゃないのが羨ましかった。
冷たい雨の中、カッパを着てバイクで走っていると、ふと虚しくなるのです。
「俺、いつまでこのままなんだろう」「この仕事、いつか報われるんだろうか」──そんなことを思いながら、ヘルメットの中でため息をついていました。

たまに他金融機関とバッティングした時に、バイクに乗っている僕は少し恥ずかしい気持ちがありました。
5.クレカ・ローン…頼み込んで取る”お願いセールス”

信用金庫にも、もちろんノルマはあります。
とくにキツかったのは、クレジットカードとカードローンの目標。これらは正直“お願いセールス”です。
親しくなった取引先を訪問して、申し訳ないなと思いながら頭を下げる。それで何とか件数を稼ぎます。
フリーローンやカードローンは金利が高いため、提案には少し抵抗もありました。
でも、借りる側の立場に立てば「審査が早くて助かった」「どうしても今必要だった」と喜ばれることもあります。
その一言に救われて、「もう少し頑張ろう」と思えた日もありました。

僕はお願いセールスが一番きつかった。
何もお客さんのためになっていないから。
今だから言えること

信用金庫の営業は、ド派手さゼロ、地味100%。
でも、地元の人と日々顔を合わせて信頼を積み重ねていく──それは、他のどんな仕事にも代えがたい貴重な経験でした。
泥くさくて、報われなくて、時に惨めで。それでも、辞めずにやってきたことは、今となっては誇りです。

確かに地味だけど、取引先との距離が近くて、地元の経営者の方と話す機会があるっていうのはとても大きな経験になりました。
最後に

もし今、信用金庫で働いていて「つらい」と感じている人がいるなら、少しでも共感してもらえたらうれしいです。
もしこれから就職を考えている人なら、「現実はこうだよ」と伝えたかった。
そして今、僕は新しい世界に挑戦しています。Web制作という、まったく別のフィールドです。
でも、この10年間があったからこそ、「次に進もう」と決断できました。
泥くさい日々も、意味のない日はひとつもなかった──今なら、そう思えます。あなたの頑張りも、必ず何かにつながっていきます。
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